コラム一覧

書籍『地方創生のための構造改革ー独自の優位性を生かす戦略をー』刊行のお知らせ

  • 2018年09月14日

nihongo_book

書籍『地方創生のための構造改革ー独自の優位性を生かす戦略をー』が2018年9月に刊行されました。

本書は、SPACE NIRA第1集のなかから19編を選び、SPACE NIRA監修者の八田達夫先生の総論とともに書籍化したものです。

共編:八田 達夫、NIRA総合研究開発機構
発行:株式会社時事通信出版局
定価:2000円+税

ネット書店はこちらから
https:/bookpub.jiji.com/book/b375745.html

SPACE NIRA 投稿一覧(第1集)

  • 2016年12月10日

Unit 01「地方創成と医療・介護の自治体負担」
 鈴木亘、岩本康志、林正義、八田達夫
Unit 02「農業政策の論点」
 本間正義、大泉一貫、山下一仁
Unit 03「少子化対策と地方創生」
 金子隆一、阿藤誠、原俊彦
Unit 04「観光政策の論点」
 篠原靖、溝尾良隆、富川久美子
Unit 05「良い地方分権、悪い地方分権」
 佐藤主光、小林航、宮崎智視
Unit 06「日本の水産業と地方創生」
 小松正之、濱田弘潤、児矢野マリ
Unit 07「少子化対策と地方創生─経済学による接近」
 八田達夫、中川雅之...

Unit 01 キックオフペーパー: 地方創生と医療・介護の自治体負担

学習院大学経済学部経済学科教授 鈴木 亘 

 東京一極集中を是正し、「自治体の消滅可能性」が指摘される地方の人口減少に歯止めをかけようという「地方創生策」が、安倍政権の新たな経済政策としてスタートした。現在、地方自治体への新たな交付金創設、東京から地方に本社機能を移転した企業への税優遇、政府機関の地方移転等が検討・着手されつつあるが、それらの中で最も効果的、かつ現実的な対策が地方への「高齢者の移住促進」である。

 すなわち、現在、都市部に住んでいる高齢者に、まだ元気なうちに地方に移...

Unit 01-A: リスク構造調整による新しい制度設計

東京大学大学院経済学研究科教授 岩本 康志 

 日本の現役世代のための公的医療保険は、大企業労働者のための組合健康保険、中小企業労働者のための協会けんぽ、公務員のための共済組合、自営業者・無職者のための国民健康保険に分かれている。それぞれの財政は基本的には独立しているため、被保険者の所得水準の違いによって、財政状況に格差が生じている。組合健康保険、共済組合の財政状態は比較的安定しているが、協会けんぽは組合健保よりも厳しい状態にある。国民健康保険の財政状況はさらに厳しい。
 公的健康保...

Unit 01-B: 医療、介護と地方財政

東京大学大学院経済学研究科教授 林 正義 

(本稿は、Hayashi(2015)“Health Care, Long-term Care, and Local Public Finances”をNIRAの文責で翻訳したものです)

1.はじめに

 日本の医療・介護制度においては、国がその制度設計を行っているものの、それ以外の面では地方が極めて重要な役割を果たしている。特に市町村は、国民健康保険制度(以下「市町村国保」もしくは「国保」と略)と介護保険制度を運営しており、それらの総予算規模...

Unit 01-C: 都道府県ごとの国民健康保険モデル給付額の算出

アジア成長研究所所長 八田 達夫 

序文

 本稿では、日本における高齢者への社会保険のための財政支出に関して、国と地方自治体の間で、どのような役割分担を行う制度改革をすべきかを分析する。特に、国が自治体ごとの住民の属性に応じて財源負担すべき「モデル給付額」を算定する。
 日本の現在の制度の下では、高齢住民は、住んでいる自治体に医療や介護などの高齢化対策費に関して多くの財政支出を余儀なくさせるが、税収はあまりもたらさない。高齢住民は、平均すれば、自治体財政にとって差し引き赤字をもたらす存...

コンファレンス 「日本の地方創生のための構造改革の課題を読み解く」   開催報告

主催:公益財団法人 NIRA総合研究開発機構
2018年2月5日(月) 15:00-16:30
フォーリン・プレスセンター(FPCJ)会見室

 地方創生の実現は、人口減少、超高齢化に直面する日本にとって最重要課題である。政府も政策資源を積極的に投入しているが、さらに効果を上げるための方策はあるのだろうか。本コンファレンスでは八田先生をはじめ第一線で活躍する3人の識者が登壇し、現在の地方創生政策の柱の一つである補助金政策の問題点を指摘した上で、少子化対策や地方分権の課題を取り上げ、地方に適切...

Unit 06 キックオフペーパー: 日本の水産業と地方創生

公益財団法人東京財団上席研究員 小松 正之 

概要

 戦後70年間、漁業法と水産業協同組合法制度が手付かずであることが原因で、獲ったもの勝ちのオリンピック方式 1)で漁獲が行なわれ、漁業資源と漁業の衰退を招いていることは、地方経済の衰退の大きな要因である。一方、ノルウェー、アイスランドや米国など諸外国は漁業の法制度を新しくして、漁業を活性化した。地方にも国家全体の経済にも貢献する産業に作り上げた。このような例をもととして、資源の回復と外部からの投資と雇用をもたらすことが日本の地方創生に...

Unit06-A: 個別漁獲割当(IQ)制度導入の経済分析

新潟大学経済学部准教授 濱田 弘潤 

はじめに

 日本の漁業の衰退が長らく指摘されている。水産庁のデータによると、日本の漁獲量は1984年をピークに減少の一途を辿っており、日本の漁業が衰退した理由の一つとして、乱獲による漁業資源の枯渇が挙げられる。ところがこれとは対照的に、アイスランドやノルウェーなどの水産資源国では、適切な資源管理政策を実施し漁業が成長産業となっている。日本の漁業においても、過剰な漁獲を防止し水産資源を維持するために、適切な水産資源管理を行う必要がある。諸外国で実...

Unit 06-B: 法的にみた日本の水産業の活性化の諸課題 ――利尻島・礼文島の事例から考える

北海道大学法学研究科教授 児矢野 マリ 

はじめに

 北海道は、日本の水産業の要である。平成26年の北海道における海面漁業と養殖業の生産は、量・額ともに全国都道府県別第1位である(北海道2016)。そして、水産業は北海道の基幹産業の1つであり、かつ沿海部および離島における地域社会の基盤でもある。しかし、他の地域と違わず、2つの問題――1)総生産量と主要魚種(スケトウダラ、サンマ、ホッケ、サケ等)の生産量の減少、2)漁業就業者の減少と高齢化――を抱える(北海道2016)。これは、北海...

Unit 07 キックオフペーパー:少子化対策と地方創生 ──経済学による接近

アジア成長研究所所長、経済同友会政策分析センター所長 八田 達夫 

 出生率は地方によって異なるから、そのことを考慮した少子化対策が採用されるべきである。

 この種の主張の中で、当初脚光を浴びた増田寛也+日本創生会議(2014)の『増田レポート』の少子化対策は、事実誤認に基づいていることは知られている。 1)

1) 八田(2015a、2016)、中川(2015)。

 

 本SPACEでは、まず中川(2016)が、このような事実誤認がもたらされた現象の原因を明らかにする。一方、鈴木...

Unit 07-A: 都市構造と結婚 ――札幌および福岡大都市圏の比較

日本大学経済学部教授 中川雅之 

1.はじめに

 2014年に発表された日本創生会議のレポートでは、「出生率の低い東京への一極集中が、日本全体の出生率を低下させている、このため東京一極集中の是正が必要である」という議論が展開された。しかし、東京都の低出生率は、婚姻率の低さに起因している。中川(2015)においては1)、東京大都市圏の中心都市としての東京都は、男女の有効なマッチング市場として機能しており、成立したカップルは、生活費の安価な郊外都市としての周辺都道府県に転出するため、周...

Unit 07-B: 保育と少子化対策 ――地方分権でどれだけ少子化対策が可能か

学習院大学経済学部経済学科教授 鈴木 亘 

1.少子化対策には就業機会確保が必要

 「少子化対策と地方創生」のあり方を考える上で重要なことは、地方自治体の少子化対策「単体」で、地方の少子化や人口減少を防ぐことはできないということである。
 結婚した夫婦が子どもを産む選択を行うことは、経済学的には、一種の「耐久消費財への共同投資」と捉えることができる。しかも、この耐久消費財は、この夫婦にしか消費の効用(子育ての喜び)を与えない「売買不可能な特殊財」である。子育てには長期間にわたって少なから...

Unit 05 キックオフペーパー: 良い地方分権、悪い地方分権

一橋大学経済学研究科、国際・公共政策研究部教授 佐藤 主光 

 わが国の集権体制は変わりつつある。従前、「集権的分散システム」(神野直彦教授)と言われた通り、地方自治体は国(中央政府)が企画・立案、財源調達(財源保障)した政策・事業を執行する、いわば「国の下部組織」に過ぎなかった。しかし、①機関委任事務の廃止を含む地方分権一括法の施行(20004月)、②全国の自治体数をほぼ半減させた「平成の大合併」、③3兆円規模の税源移譲を実施した三位一体改革、④民主党政権下での補助金の一括交付金化等...

Unit 05-A: 地方分権に関わる政府間財政移転の課題

千葉商科大学政策情報学部准教授 小林 航 

1.はじめに

 地方分権に関する議論を進めていくと、機能配分と財源配分の議論に行き着く。前者については地方公共団体(地方政府)が担うべき役割は何であるかが問われ、後者についてはその役割に対応する財源をどのように割り当てるべきかが論じられる。
 伝統的な政府間機能配分論では、表1のように「財政の三機能」という考え方に基づいて政府の役割を分類したうえで、資源配分機能のうち地方公共財の供給については地方政府が担うのが効率的である、とされる(分権化定理...

Unit05-B: 地方分権と固定資産税:固定資産税の「応益性」を中心として

神戸大学大学院経済学研究科准教授 宮崎 智視 

1.固定資産税の「応益性」について

 地方分権下における自治体の基幹税として固定資産税を用いるべしとの提言がしばしばなされる。例えば,井堀(2007)は,地方の公共サービスの受益を税として反映できるため,固定資産税を地方分権下における有効な税として活用できるとしている。
 この議論は,固定資産税が応益性を満たすことを前提としている。固定資産税の伝統的な帰着論に従えば、土地への固定資産税は全額土地の所有者が負担するとされている。すると、土地へ...

Unit 03 キックオフペーパー: 地方創生と「少子化」

国立社会保障・人口問題研究所副所長 金子 隆一 

 わが国の合計出生率(または合計特殊出生率TFR)は2005年にこれまでの最低値1.26を記録した後、いくらかの回復をみせたものの、現在は1.4台半ばで小康状態にある。この水準は親世代に対して子世代の人口規模が7割となる生み方である。したがって孫世代ではほぼ5割となる。つまり出生率がこの水準で「安定」しているかぎり、日本人の世代規模は2世代ごとに半減をして行くことになる。ごく最近までは団塊ジュニアという大きな世代が親となる年代だったおか...

Unit 04 キックオフペーパー: 2020年に向けての日本の観光戦略に関する課題と地方創生に向けた観光関連規制緩和の論点

~訪日外国人観光客3000万人を目標とするわが国の観光振興と
地域活性化の在り方について〜

跡見学園女子大学観光コミュニティ学部准教授 篠原 靖 

はじめに

  政府は2013年悲願であった訪日外国人旅行者誘客数(インバウンド旅行者数)1000万人の目標をクリアし、2015年度には1973万人を記録、さらに2016年には2000万人を突破する勢いを見せている。また訪日客による国内消費総額は3兆4,771億円と急増し、年間値で初めて3兆円を突破。前年(2兆278億円)に比べ71.5...

Unit 04-A: インバウンド観光を視野に入れたDMOの構築、その方法と課題

公益財団法人日本交通公社理事 溝尾 良隆 

はじめに

 近年、インバウンド観光を地方創生の起爆剤にしようとする動きが高まっている。外国人の訪日観光客数も急増するなか、地域それぞれでの観光客の受入れ態勢の整備も急務となっている。その一つが、DMO である。DMO とは Destination Marketing/Management Organizationの略称であり、地域が主体となって情報発信・プロモーション、効果的なマーケティング、戦略策定等について推進する観光振興組織のことであ...

Unit 04-B: 日本における民泊規制緩和に向けた議論

広島修道大学商学部教授 富川 久美子 

1.旅館業法と民泊

  「民泊」は、文字どおり民家に泊まることであり、それ自体は違法ではない。しかし、現在問題視されているのは、旅館業法に抵触する可能性のある「民泊」である。借家契約は30日未満の場合、「旅館業」として都道府県知事などの許可を得る必要があるという旅館業法および借家法の運用がなされている。旅館業法による「旅館業」は、「ホテル営業」、「旅館営業」、「簡易宿所営業」、「下宿営業」の4種別があり、民宿やウィークリーマンションが通常、客...

Unit 03-A: 地方創生と少子化対策

国立社会保障人口問題研究所名誉所長 阿藤 誠 

1. はじめに

 日本で少子化が始まって40年を超える。総人口は2010年をピークに減少を始め、高齢化率(65歳以上人口割合)は2013年に25%を超えた。人口減少を日本の一大危機ととらえる安倍内閣は、昨年9月に「まち・ひと・しごと創生(以下、地方創生と略称)法」を制定した。それに基づき同年12月に、①国民希望出生率* 1.8の実現、②人口減少に歯止めをかけることを政策目標に掲げた「地方創生長期ビジョン」ならびに「地方創生総合戦略」...

Unit 03-B: 地方創生における少子化対策の在り方とは?

札幌市立大学デザイン学部教授 原 俊彦 

 2014年、日本創成会議が「ストップ少子化・地方元気戦略」1)を発表、「人口再生産力に着目した市区町村別将来推計人口」とともに「人口移動が収束しない場合の全国市区町村別2040年推計人口に関する地図」で、「2039歳女性」が50%以上減少する地域を明示し『地方消滅』の可能性を示唆したことはまだ記憶に新しい。これが契機となり『地方創生法』2)が施行され『まち・ひと・しごと創生本部』3)ができ、2015年現在、全国の市町村は「地方人口ビジョン」...

Unit 02 キックオフペーパー: 農業政策の論点

東京大学大学院農学生命科学研究科教授 本間 正義 

  日本農業が変わろうとしている。TPP交渉の行方にかかわらず、日本農業は新たな生き残り戦略を練り、21世紀型ビジネスモデルを構築しなければならない。それは、長らく続いた戦後農政からの転換というよりは、戦後農政の基礎が戦時体制にあったという意味では、戦時体制を作った「1940年体制」からの脱却でもある。

 実際、長らく続いた、自民党・農水省・農協という「鉄のトライアングル」体制が崩れつつある。昨今のコメの減反政策の見直しや農協改...

Unit 02-B: 農政アンシャン・レジームからの脱却

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 山下 一仁 

1.農業衰退の原因

  農業が衰退している。特に、米が著しい。農家の7割が米農家なのに、米農家は農業生産の2割しか生産していない。これは、米農業が零細で非効率な農家によって行われていることを示している。
 戦後農政の特徴は、米価によって農家所得の確保を図ろうとしたことである。政府が農家から米を買い入れた食管制度のもとで、1960年代以降、JA農協(農業協同組合)は米価闘争という大政治運動を展開した。自民党の支持基盤である農村を組織する農...

Unit 02-A: 新しい農業ビジネス

経団連21世紀政策研究所研究主幹 大泉 一貫 

  日本農業の産出額を高めるには結局のところ産出額の大きい一部の農業経営を増加させるしかないと私は考えている。わけても販売額にして5千万円以上の売り上げをあげる「先端的経営」への期待は大きい。彼らは農家数の1%に満たないものの、わが国農業の3分の1を産出している。
  彼らのビジネスは、「6次産業化」「農商工連携」「インテグレーション」「契約栽培(計画生産)」など様々なネーミングでいわれているが、ベースとなっているのはマーケットニーズに基...